嶋田俊之出版記念特別セミナー


    テーマ       カラーハーモニー
主旋律は色使い

2004年9月23日
日本編物文化協会主催のセミナーへ参加してきました。
ドキドキしながら当日を迎え、いざ会場へ。
受付には事務局守田氏。挨拶や軽いお話しをしましたが
そばに嶋田先生がいらっしゃったにもかかわらず、
声をおかけする勇気がありませんでしたf(^ー^;

午前の部
簡単なご挨拶の後、すぐにスライドが始まりました。
「ニットに恋して」の掲載作品に即して
ヨーロッパ伝統ニットの詳細なおはなしです。


〜紫乃舞のメモより〜
内容は嶋田先生のお話を私なりにまとめた物です。

【フェアアイル】
 イギリス・フェア島が発祥の地。
 厳しい自然の中、海藻も食べるたくましい羊たちから取る羊毛で、
 戸外で作業する家族のために編まれてきたニット達。
 さらにはセーター生産が産業となり、世界に広がっていきました。
 当初は羊の持つ毛色だけで編み込み模様を表現していました。
 現在羊の種類で約29種類ほど。
 一頭の羊でも毎年色味が変わるため、同じ色糸を確保するために
 毛刈りしたままの「一頭買い」という方法をとる事もあるとか。

●柄の特徴
 身頃の中心から左右対称である事が基本
 模様のはめ込み方、柄の組み合わせなどの調整が重要なポイントとなります。
 衿ぐりも柄が切れないよう、柄優先で開きを決めるのが本場式。
 
 柄の配分や組み合わせは大柄、小柄の最大公約数で決めるため、
 24目を最大として、16目・12目・8目・4目というように
 ほとんどが4目の倍数である事が多く、そうした方が柄を作る上で効率的。
 肩も綺麗に模様が繋がるようにデザインされています。

 肩下がりがないのは、肩先が落ちる事で肩幅を強調し、
 男性らしさを表現する意味もあったそうです。

嶋田流アレンジポイント
 1枚のセーターの中でボーダーパターン数種を繰り返すのが一般的ですが
 少しずつ柄を変えたり、色合わせを変えて
 その時の気分や「いいな」と思った色使いをすることが
 おのずからオリジナリティーの表現となります。

●「毛糸だま」のキットについて
 「実際に自分が使った色数をキットにするためには
 膨大な労力が必要で更に価格設定もあまりに高価になってしまうので、
 他の様々な制約もあってあのような設定になりました」との裏話も。

【ノルディックセーター】
 白×黒などのモノトーンで表現される編み込みニット。
 これも羊の毛色そのままを使っていたため。

●柄の特徴
 胸から上に雪模様などの柄が入り、
 下は地色にポチポチと配色糸が編み込まれる。
 この柄は「シラミ模様」呼ばれている、最小柄。
 シェットランド地方では「ノミ模様」とも呼ばれています。
 なぜこう呼ばれるかは諸説あり、
 見た目でそう呼ばれるようになったというのが大方の意見です。

 現代のノルディックセーターは、ノルウェーでは略礼装として通るほど
 民族衣装としての位置づけをなされていますが、
 実際の古い作品は、野良作業用に作った物であるため、
 ウエストから下はオーバーオールの中へ入れて着るのに
 薄く仕上げる必要性から無地のメリヤス編みです。
 着込むうちに擦れやすく、修正を行うのにも便利なためです。

 現代の我々が見るとデザイン的には物足りなさを感じますが、
 歴史的にはそれが正統であった時期もあるのです。
 まさに生活から派生し、地元に根ざした手仕事であったことがわかります。

【スウェーデン:バスケット・ステッチニット】
 日本で「網代編み」「白樺編み」と呼ばれるバスケット・ステッチニット

●柄の特徴
 籠を模した編み地であるため、単色でも立体感があり奥行きが出ます。
 色を変えると深みが加わり、新たなパターンとしても有用です。

嶋田流アレンジポイント
 ロング段染め糸を色ごとに切って使う事によって、表現の幅が広がります。
 究極の柄合わせの結果、脇の下で
 六角風車の柄が浮き上がるように仕上がりました。

【シェットランド手袋】
 代表的なものは「サンカ手袋」

●柄の特徴
 立体的に仕上げるため、柄の組み合わせや目数に至るまで、
 様々な工夫にあふれています。
 甲側に編み込み模様、手の平はシードパターンと呼ばれる細かい柄が使われています。

 現地での販売は受注生産のオーダーメイドのみで置き売りはありません。
 家族に作っていた頃の名残で、必ず持ち主のイニシャルを入れるためです。

【嶋田俊之のデザインソース】
 オリジナル作品、作品展での展示作品を見ながら。

*大きな柄の中にショートピッチの段染めを編み込むことで、
 複雑で奥行きのある編み地を表現。
*日本の柄の良さ、美しさの再発見。
  間の美しさ(密と粗のバランスの妙)  雪の舞い、あられを思わせるランダム感
*藍染め文様からインスパイアされて・・・
  色彩:インディゴ、藍のグラデーション
  :絣・わらび・トンボ・瓢箪などを部分使いで入れる。
     ピンホイール(風車)→千鳥格子
  袖口、衿に白+赤を使う→襦袢のちらりズム。
  古布の不規則感と柄の欠損までを表現する妙。


午後の部はいよいよ実技です。


まずは作品についての詳細説明開始。
糸はすべて玉巻になっていましたが、
キット組みは全部嶋田先生ご自身でなさったそうです。
糸の撚り方向、巻いた玉の美観にまでこだわり、
他の方の手を借りる事を良しとしなかったとか。
入れてあったポリ袋にもご自身で判を押されたという
可愛いシールで封がしてありました。
先生お手製のレシピもたくさんの工夫があって、
普通の編み図とは違っていました。
「ニットに恋して」掲載の作り目方法で作り目を始めます。
注意点、技術についての項目があり、
書き込みできるようになっています。
詳細を事細かに説明していただきました。
作り目のやり方を実演
名古屋は参加者が多く、人垣が出来て後ろからは
先生のお手元が見えないほどでした。
一通り説明が終わり、質問を受けた後
実際の編み地を編む
先生の手さばきも披露していただき、
指使いについて説明を受けました。


【アメリカ式か、フランス式か?】
ご自身は指の故障を経験した事や
糸の撚り方向を大事にするという観点から、
アメリカ式で編んでいらっしゃいますが、
指使いなどの技術はそれぞれのやりやすいように・・・
というのが嶋田先生のお考えです。
「せっかく時間をかけて編むのだから
楽しい気持ちを大事にして下さい」というお言葉が印象的でした。

嶋田先生は小柄で線の細い方でした。
物腰は柔らかく、ピンク系チェックのシャツに
生成のガンジーセーターを肩に羽織っていらっしゃるご様子は、
ニットの専門家臭さを感じさせないスマートさでした。
さりげなくクロムハーツっぽいシルバーアクセサリーなどを身につけていらっしゃって、
おしゃれな方という印象でした。

お話しされるご様子、特に生徒さんとの会話を聞いていると、
オネエ言葉のように感じましたが、どちらかというと関西の方らしい
柔らかい表現のせいなのでしょう。

【本だけではわからない、制作の裏話】
今回の本に関して、ある個人サイトで批判されて涙を流すほど悔しかったとの事。
「読者には見えない努力をわかってもらえないのは
大変残念だけれど仕方ないですね」というお話しがありました。
一方では巻末ハガキのアンケートで、
「たいへんよい本を出版していただき感謝しています」というご意見もあったそうです。

国産の糸を使った事には出版後賛否両論ありましたが、
広く皆さんに挑戦していただけるようにということと、
「キットが高すぎる」「色を変えて編みたくても糸が手に入らない」などの意見も
編集部に寄せられていたため、国産糸を使う事を前提として
デザインの依頼を受けていらっしゃった
そうです。

ご自身のお手元にあるシェットランド糸(360色ほどお持ちだそうです!)を使えば
思い通りの作品が出来るはずが、「既製品の糸となると欲しい色がなくて
大変苦労しました」とおっしゃっていました。

作品制作も今回は出版の締め切りの関係で
初めてニッターに頼まざるを得ず、ベテランニッターに頼んだ物でも
納得できない場合はやり直しを依頼し、もちろんご自身も生活のほとんどを犠牲にして
作品作りに取り組まれたお話を聞いてニッター経験のある私は深い共感を覚えました。

本を作るためには「読者アンケートの力が絶大」とのお話しがありました。
著者側から提案したり、「作品集を作りたい」と
申し入れても取り合ってもらえないそうです。


レイアウト、装丁なども編集者の仕事なので
嶋田先生の方から注文を付けることはできまません。
ただ、撮影に際しては「これほどアップに耐えられる作品は
嶋田氏ならでは」とのお話だったそうです。
出して欲しい本や再版のお願いなども
アンケートに書いて出す事が効果的だそうです。
「本の感想も含めてぜひアンケートを書いて下さい」と
嶋田先生から要請がありました事もこの場を借りて書き添えておきます。

講座の最後に本へサインをいただき、
キットも余裕があったのでもう1セット購入して会場を後にしました。

帰宅後、夢中で帽子を編み、フェアアイルの楽しさを堪能しました。
このような機会を与えて下さった日本編物文化協会および
嶋田俊之先生に大変感謝しています。

会場内画像提供:日本編物文化協会事務局

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